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シリーズ「ラピュールはじめて物語」第１２回

悪夢のような満州からの引き上げから２年、
父は再起を図り、新しい商売をはじめる為に、それまで身を寄せていた実家の
山梨の田舎の生活を捨て都会に出ることにしました。

そして、実家の山梨から「近い」というだけの理由で行き先は静岡に決まりました。

母は、叔母が中国でホテルを経営していたこともあり、「旅館をやりたい」と提案したそうです。
そして、その結果「追手町」という静岡の町のど真ん中、現在の伊勢丹の近くに旅館を建設することになりました。昭和２３年、私が２歳のときです。

当時、まだ復興もままならない静岡の真ん中に新しく旅館が建つということで、町ではかなりの評判になったそうです。
私は、まだ小さかったため、山梨の田舎に預けられ、まずは父と母が移り住み、そして山梨の親戚の応援もあり、旅館はオープンしました。

オープンした当初は、今話題の店ということで、タクシーの運転手さんも次々とお客様を、連れてきてくれたりしました。また、静岡という場所は、交通の便が今より悪く、当時は「東京からの静岡出張は一泊必要だ。」というのが常識でしたので、お仕事で利用されるお客さんも多かったようです。
また、県庁、市役所、警察等のすぐ近くだったため、旅館は大変繁盛しました。

そしてオープンから３年がたち、旅館の経営が軌道に乗ると、
山梨に預けられていた私は５歳の時、静岡に移り、父と母とそして沢山の仲居さんたちと、一緒に暮らす事になります。
父と母はこの頃、とても忙しく、また父は付き合いの多い人であったため、家族で一緒にいる時間はあまりありませんでした。
正直なところ、小さな時の記憶はあまりありませんが、毎年お正月は、家族と従業員の人が全員でずらーっと一同に介し、一緒に食事をして、新年を祝った事を覚えています。

私の父と母にとっては、旅館が閉まるまでの１５年間が、とてつもなく忙しく働いた時期であり、ビジネスマンとして、キラキラ輝いていた人生の絶頂期だったろうと思います。また、私は小学校から高校３年までこの旅館から通いました。ここでの生活が女学生であった、私の青春時代ということになります。

次回は、私の青春の思い出について触れたいと思います。

（望月信子）

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